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大阪家庭裁判所 昭和45年(家)5270号 審判 1970年7月20日

申立人 峰岸扶美(仮名)

事件本人 野本武(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

本件調査の結果はつぎのとおりである。

申立人は精神障害者の実姉であるが昭和一七年か一八年頃までは同居していたが、申立人が親兄弟の反対を押し切つて結婚してからは誰とも交際がなかつたところ、昭和三四年父政一が死亡した後精神障害者がそのことを知ると再々申立人のところへ無心に来たので入口に中から錠をかけておいたら裏口のガラスを破つて侵入したこともあるので恐ろしいので保護義務者になることを拒否している。申立外松村よし子は精神障害者の実妹であるが、精神障害者は一六歳の頃家出したので、そのためよし子自身の結婚話も度々破談になり、終には精神障害者や申立人のことを秘して現在の夫晃と結婚したが、同人は結婚式にも紹介されない義兄姉のことは知らないと立腹している。同人等の父政一の死亡後、精神障害者が「財産分けしないのなら家族一同皆殺しにしてやる。」とやかましく言つて来たので父の遺産のアパートを売却してその分割を済した。夫晃との関係もあるので、これもまた保護義務者になることを極力拒否している。末妹大平弓子の所在は不明であるし、他に扶養義務者は見当らない。

このような場合について、「扶養義務者が数人ある場合において、それらの者がすべて遠隔地居住等のため保護義務を行なわせるのに適当でないときでも、家庭裁判所は、保護義務を行わせるのに比較的適当と認める者を選任するほかはない。この場合、選任された保護義務者が適切に義務を遂行できないことも予想されるが、このときは、精神衛生法第二一条の定めるところにより、市町村長が保護義務者になるもの」との見解があるが、本件のように、いずれの者も適切に義務を遂行できないことが明らかである場合には、むしろ当初から同法第二一条の定めるところによつて、本件精神障害者の居住地を管轄する大阪市長が保護義務者になるものと思料するから本件申立を失当としてこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 古川秀雄)

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